はてなダイアラージャンプ漫画百選 桂正和「プレゼント・フロムLEMON」

桂正和「プレゼント・フロムLEMON」は1987年33号から51号まで連載されました(全19話)。
デビュー連載「ウイングマン」(1983年5/6号〜1985年37号)のヒット後、「超機動員ヴァンダー」(1985年52号〜1986年21号)が20週で打ち切られ、「すず風のパンテノン」*1「KANA」*2と読切を2本はさんだ後での連載開始です。


桂正和の漫画なので

毎日パンツはきかえてるかー

と、アイドルのスカートめくるのがお約束になっています(笑)
桂正和といい、寺沢武一といい、ジャンプ作家に尻フェチが多いのは、胸を描くよりも少年誌としての規制がゆるい尻のほうが描きやすいからでしょうね。
お陰ですっかり僕も…


PRESENT FROM LEMON (集英社文庫(コミック版))ストーリーは、これから売り出そうってときに急死した演歌歌手を父親に持つ沢口麗紋がアイドル歌手になるというもの。
作者本人も自覚している通り、芸能界ものとして捉えるとディティールが甘々ですが、主人公の成長を軸とした少年誌の王道として読むと(打ち切られたこともあり)2巻できちんとまとまった良い作品です。
おニャン子クラブが解散し、アイドル冬の時代に突入する時期の連載だったから、タイミングも悪かったんでしょうね。
事実上のヒロインは2名。麗紋の幼なじみで現・アイドルの広川舞美と、元アイドルで麗紋の事務所の社長・秋野このえ。秋野このえは私服が派手な20代後半という、少年誌のヒロインとしてはピーキーなキャラクター。
前作「超機動員ヴァンダー」と2作連続で打ち切られたということはヒーローもの、アイドルものという桂正和の2大要素を否定されたことになるわけで、次作「電影少女」で起死回生のヒットを飛ばすまで、桂正和は2年間雌伏の時を過ごすことになりますが、それはまた別のおはなし。


主人公のライバル的存在になるのは大手テレビ局の歌番組を仕切る敏腕プロデューサー大崎です。林風仁(はやし・ふうじん)というイケメン歌手もいたにはいたけど、おまけページのネタ要員にしかなっていません(苦笑)
10年前、新進プロデューサーだった大崎は埋もれていた逸材・沢口桃次郎を発掘しますが、TV生出演直前に桃次郎が心不全で急死したため、失意の大崎は一気にダーク化。有能だがこわもてのプロデューサーに変貌し、麗紋の大きな障害となります。


アイドル歌手・沢口麗紋のデビューは大崎の妨害から難航したため、事務所サイドは奇策に転じます。音痴の新進女優・矢頭真琴の歌手デビューに際して、麗紋がゴーストシンガーになるというもの。
麗紋の男女を超越した綺麗な歌声でデビューシングル「花ことば」は大ヒット。マッチポンプでゴーストシンガー疑惑を流し、歌番組の生放送に飛び入りで麗紋が歌い、センセーショナルなデビューを飾ろうという魂胆でしたが、真琴のマネージャーに企みがばれ、麗紋は咽を潰されてしまいます。
万策尽きた中、生放送で麗紋が登場すると、以前よりも綺麗な歌声で歌い出した!(えー?)
実は麗紋は以前にも歌い込みすぎで咽を何度か潰したことがあるが、その度にさらに綺麗な声に復活してきたとカミングアウト。お前はサイヤ人か?と問いたいけど、「DRAGON BALL」でもサイヤ人が襲来する前の話です。
このエピソードのあと、アンケート結果が芳しくないと自覚していた桂正和は綺麗にまとめの話に向かっていきます。「ヴァンダー」がモロに打ち切られたとわかる終わり方だった反省からでしょうか。
明らかに端折ったところは"さと子"が麗紋のファン第1号ってだけで終わったところくらいかな。連載第1話が載ったジャンプの表紙のさと子は着物姿なので、当初の構想では演歌歌手としてデビューするはずだったのかも。


麗紋の事務所の社長・秋野このえは大崎の妨害でアイドル生命を潰された過去を持ち、麗紋をアイドルにしたのは大崎への復讐の意味もありました。
物語終盤、大崎は試練を与えることで麗紋を間接的に成長させようとしていることに気付いたこのえは大崎に真意を問いますが、大崎は

なぜ 自分の時にそのことがわからなかった

と、ドSまるだしの回答。
このえ姐さんも見るからにSなので合わなかったんでしょうね。麗紋はMなので、大崎の教育方針(?)にバッチリはまって一人前の歌手に育ちハッピーエンドを迎えました。


「プレゼントフロムレモン」は現在、集英社文庫コミック版全1巻で発売されていますが、個人的にはおまけページが無駄に豪華な最初の新書判全2巻をお薦めします。
連載打ち切られ作品のコミックスはおまけページが充実していますが、「レモン」は度を過ぎています。やりすぎたせいか、それ以降のコミックスではおまけページが皆無に等しいのが残念。
雑誌連載時で物語を綺麗にまとめてしまったので、本編の描き下ろしはありませんが、1巻の巻末は渡辺満里奈、2巻の巻末では酒井法子と対談しています。コミックスのおまけページは作者持ち出しなのに…
この頃、スタジオK2Rを設立したので税金対策と個人的趣味の一石二鳥を狙ったんでしょうね。"大ロリコン野郎"黒岩よしひろも友人という地位を利用して同席しています(何がエヘヘだ!)


あと、おまけページでは麗紋たちアイドルの架空シングルのデマ・コマーシャルが載っていますが、前半の広告はアナログEP盤とカセット、後半では8センチCDの表示がされています。
シングルはアルバムよりも若干CDへの移行が遅れていて、8センチシングルの普及した88年に一気にアナログからCDへ移行したんでした。87年解散のおニャン子クラブにはそんなわけで当時シングルCDが出ていません。
シングルのジャケットが(8センチシングルで)小さくなったことも、当時のアイドル文化衰退要因のひとつに挙げられますね。


以上、

  1. 少年誌と桂正和漫画の王道を行っている。
  2. 打ち切られ漫画だけど綺麗にまとまっている。
  3. おまけページが充実。
  4. 当時のアイドル業界を知る資料性もある(本編以外の部分で)。

ことから「プレゼント・フロムLEMON」は個人的に評価していますが、あまりにも他所で語られない作品なのではてなダイアラージャンプ漫画百選に選びました。
今回読み返すにあたって、わき役の名字以外ほとんど内容を覚えていたので自分ながらびっくりです。


次回はid:Louisさんに回します。

*1:86年週刊少年ジャンプ特別編集サマースペシャル掲載

*2:週刊少年ジャンプ1986年48号掲載